聖女の外典
第九話







 剣を振るう度に理性が溶けていく。
 バーサクの熱病が、脳髄の全てを侵そうとデオンの内側を這いずり回る。そうして理性
の防壁が溶ける代償に、繰り出す剣は冴え渡り響く。
 脳内麻薬の分泌が思考を際限なく加速させる。
 思考と理性が手を取り合ってマニュアル操作していた肉体は、今や精緻に組み上げられ
たシステムのように、対応する肉体的反射を繰り返す。
 突く、突く、突く、往なす、突く、突く、避わす!!
 突き動かされる右手の動作は苛烈を極め、今や少しずつ対手の肉体に損傷を与え始めて
いる。与える小さな傷は、忽ちに回復を見せるが、削っていっているという事実の方が遥
かに大きい。
 元々綱渡りのような均衡を保っている聖女だ。
 このままアクセルを踏み続ければ、いつかどこかで、この剣は聖女の喉下を貫くだろう。
 一粒、一粒、細かな砂塵を天秤の秤の上に積み上げるように、突きを放つたびに勝利は
デオンの方へと傾いていく。
 対するジャンヌはその表情に焦りの色を濃くていく。
 彼女は直感と反射神経のみを頼りに、辛うじてその苛烈な剣を受けているが、それは騙
し騙しという意味だ。その戦法は直感に頼りきった一辺倒のものであり、デオンのような
多彩性はない。
 騎士の剣が鉄壁の直感……その僅かな間隙を突くように対応を見せ初めているのに対し、
ジャンヌの技巧には全くといっていいほど向上が見受けられない。
 それはまるで、馬脚を現すように、メッキが剥がれるように、次第次第に、ジャンヌの
地力が露呈してくようだった。
 その時、辛うじて逸らした剣先が旗の柄を滑り、ジャンヌの左肩口を浅く穿った。
「……ヅ!!」
 奔る痛みを堪えて、ジャンヌが一歩前に踏み出す。
 剣が弧を描くようにしなり、反発力を蓄えた剣が一層深く肩口に埋没しようとしたその
刹那、デオンはそれを嫌い、剣を引いた。
「ハァァ!!」
 必ずデオンは剣を引く。
 そう確信していたかのように、ジャンヌはその後退に合わせて右腕一本で大きく旗を振
りぬく。腕一本で振るった為に大きく伸びた間合いと、それに伴い大きく乗算された遠心
力が、必殺の威力を秘めて襲い掛かる。
 だがデオンはその攻防を予測・・していた!!
 ジャンヌ・ダルクは、追い詰められたなら後ろに退かず必ず前に出ると。
 死中に活を見い出す。
 それが英霊、ジャンヌ・ダルクの性質なのだと予測しきって、デオンは大きく後ろにバ
ックステップを踏んだ。
 必殺の一撃が空を切る。
 右手一本で振りきった長大な聖女の獲物は、遠心力を伴って彼女を大きく振り回し、バ
ランスの崩壊を誘発させる。転倒しなかったのは、流石というべきだろうが、それでもそ
の隙は致命的だ。
 大きくバックステップしたデオンは、足に力を貯めバネの様に鋭く切り返した。
 その身に纏った腹部装甲の上、膨らんだ紫の胸と胸の間、その奥にある心臓目掛けて、
剣を突き出す。
 そこに守りはない。
 後は突き出した剣が肋骨の合間を避けて、聖女の心臓貫き上げるばかりである。
 だがその瞬間を狙っていたのは、デオンばかりではなかった。
 剣先が退廃的な色合いのの布地を貫いた。
「貴様!!」
「はぁい♪」
 アサシン、マタ・ハリが横合いからジャンヌと、デオンの間に割って入ったのだ。
 突き出した剣はマタ・ハリの腕布飾りを貫き、突進した肉体は勢いそのままにぶつかり
合い、縺れ合うように地面を転がる。
「騎士の戦いを邪魔するか、女ぁ!!」
 美麗なその顔に青筋立てて吼える騎士の首を、冷やりとした白い指先が掴む。
「生憎と、そういった余分なものに興味ありませんの」
 転がった隙に、股がるようにして騎士の上でマウントポジションを取ったマタ・ハリが
妖艶に笑う。仕草、表情、体制、その全てが扇情的に輝いている。
 普通の男ならば、もうこの時点で勝負ありの判定が下されるであろう。
 しかし、
「女が騎士を組み伏せていられるとでも……」 
「えぇ、それは無理よ。でもこれでチェックメイト」
 首を押さえられ苦しげに言葉を搾り出すデオンに、マタ・ハリはグイっと顔を近づけて
その真名を唱えた。
「さぁ、私を見て――、私の瞳を覗いて頂戴――、私の名は陽の眼を持つ女マタ・ハリ
 妖しく輝くその瞳こそは、世の男を捕らえて離さない、魔性の瞳。
 それは先天的な魔性ではない。マタ・ハリという女の性質と、彼女を目撃し、彼女に関
わった全ての男が作り上げた共同幻想。
 創られ、演ぜられる、妖しくも魅力的な魔性の輝き。
 それが男を殺せる・・・必殺の間合いから放たれるのだ。
「くぅ!!」
 抗うようにデオンが苦悶の声を上げる。
 バーサクの呪いによって蕩けた理性に、それがダイレクトに突き刺さるのだ。
 デオンは理性の障壁を再建し、セイバークラスに付随した対魔力を必死に編み上げる。
 抗う為に理性を再び取り戻し始めたデオンは、甘美に痺れる苦悶の意識の中で思考する。
 このサーヴァントは初めからコレを狙っていたのだと。
 漂い始めた戦闘の気配から身を隠し、戦場から雲隠れしていた。
 魅了の呪いに特別強い聖人を標的にする事はできない。
 かといってセイバークラスの対魔力を無視することもできない。
 だからこのサーヴァントは、バーサクの呪いによって自分の理性が崩れる時を待った。
 見切りが早ければ対魔力によって魅了は防がれ、見切りが遅ければ加速したバーサクの
呪いによってジャンヌ・ダルクは打ち倒されていた。
 このマタ・ハリというサーヴァントは、虎視眈々と限界ギリギリを窺っていたのだ。
わたし・・・を……、舐めるな!!」
 苦悶の言葉を発すデオンは、だけれど『魅了』という作用に対しては、不犯ふぼんを誓った聖
人と同じように、特筆すべき抵抗力を持っている。
 それは『自己暗示』スキルによる性別の偽装。
 シュヴァリエ・デオンは強力な自己暗示によって、自らの性別を自在に変化させる。
 その特殊性によって、男性特攻、女性特攻、その両方を無効化するのだ。
 だが。
「くっ!!」
 力を入れて起こそうとした身体を、デオンはグイっと地面に押し戻されてしまう。
「安心なさって……。わたし女性が相手でも上手くやれますから♪」
 蛇のような恥らう笑みを浮かべて、マタ・ハリは緊張にこり固まる身体を解きほぐすよ
うに促す。
「何て放埓な女だ……。慎みは無いのか!!」
「勿論ありますわよ。誘惑は大胆に……、ベッドで服を脱がされる間は初夜に震える乙女
のように慎み深く……いざ、事が始まれば積極的に……。―――ほらね、私ってば男性の
誰もが悦んでくれる慎み深さを備えてるわ」
 面倒がなくていいでしょ?そうマタ・ハリは笑って誘惑の力を一層強める。
 世の男達によって望まれ創られた、決して共存しない女の性質を演じきる彼女の魅了は、
それを望まれれば性別の壁すら突破するのだ。
「フッ、貴女を見ているとデュ・バリュー夫人を思い出す」
 マタ・ハリの物言いに、デオンはふと、宮中にいた婦人の名前を思い出す。
 妖艶で魅力的。ふしだらで退廃的。愛嬌があってジョークが上手い女性。
「あら、他の女の名前を出すのは無粋ではなくて」
「あぁ、そういえばあの方も娼婦だったな」
 デオンはマタ・ハリの声には応えず、ただ記憶を口に出しながら整理している。
 ルイ15世に専属で仕えた高級娼婦。王宮で幾度も見かけた派手なドレスを着た女性。
 デュ・バリュー夫人という名は、云わば称号の様なもので、それは丁度、彼がシュヴァ
リエ・デオンと呼ばれるようなものだった。
 だから彼女にも生来の名前があった筈だ。
 確かそれは……。
 魅了に抗いながら、どこか取り留めのない思考をするデオンは、視界の端で聖女が旗を
クルリと一回転させるのを見た。
 それは魅了による精神支配を待つまでも無いという所作。
 マタ・ハリが押さえ込んでいる間に、心臓及び霊核を破壊せんと武器を携えてサーヴァ
ントが迫ってくる。
「あぁ、思いだした。彼女の名は……ジャンヌ・・・・だ」
 デオンは思い出せて良かったと目を閉じる。
 マリ=ジャンヌ・ベキュー、フランス王を相手にする、公に認められた高級娼婦。
 自分はそんな事も思い出せないほど理性を失っていたのかと、デオンは嘆息するように
自嘲し、消滅の訪れを待ちうける。
「キャ!!」
 短い悲鳴が上の方から聞こえると同時に、デオンの体を拘束していた圧力が嘘のように
消え失せた。そしてその直後、横たわるデオンの全身を風が叩いた。
「あぁ、来てしまったのだな……」
 目を閉じたまま、デオンはゆらりと立ちあがる。
 そして自分の周囲に感じる無数の気配を、両手を広げて紹介するように言った。
「気を付けたまえ。之らは皆援軍だ」
 目を開く。
 視界には踊り子のような衣装を纏ったサーヴァントが尻もちをつきながら茫然と頭上を
見上げ、聖女ジャンヌ・ダルクは旗を槍のように油断なく構え……、そして上空に渡り鳥
のように群れをなした無数のワイバーンがひしめいていた。
「なぜこれ程までもワイバーンが……」
「何故?何故もないさ。我々の旗印は邪竜の紋章。掲げるのは竜の魔女。ならば之らはみ
な魔女の手足となって動く一兵卒なのさ」
 そしてシュヴァリエ・デオンは竜騎兵連隊長という奇妙な符合。
 いや悪趣味な符合といった方が良いだろうと、デオンは自嘲する。
 こうなる筈ではなかった。
 ワイバーンを集め、更に逃げ出したワイバーンをワイバーン自身に集めさせ、集結した
なら移動を開始するように命じた。
 先行した自分はあっさりと木っ端のように、正しき旗の前に散る筈だったのだが……、
一歩遅かった。
 踊り子のサーヴァントにマウントを取られた時、視界の端でジャンヌが旗を構えたのは、
自分に止めを刺す為ではなく、頭上から襲い来るワイバーンの爪から、あのサーヴァント
を守る為の行動だったのだろう。
 傷付けぬように旗を持ちかえ、その柄で圧しかかるサーヴァントを退避させた。
 それが真相なのだろう。
「全く、神は何処に居れるのか……。後一歩、あともう数瞬の奇蹟さえあったのなら、こ
の仮初めの命は敢え無く散ったものを……」
 力無くぶら下げた剣を力無く持ち上げる。
 バーサクの熱病は納まり、理性は取り戻した。
 だがデオンに掛った呪いは他にもう二つ。
 自決の禁止と、命令への服従。
 それがバーサクの呪いと共に、令呪として下っているのだ。
「――――目標、前方」
 ゆるゆると持ち上げた剣を指揮刀のように持ち上げながら、奥歯で堪えるようにしなが
ら命じる。
「――――総員、蹂躙せよ」
 命令が斬って落とされた。
 飛び交う飛竜たちが、死肉を見つけたハゲ鷲のように一斉に滑空してくる。
「貴女は私の後ろに隠れて!!早く!!」
「!!」
 聖女の切羽つまった声が聞こえる。
 戦闘能力のないサーヴァントを庇おうというのだろう。
「はぁ!!」
 振りかぶる旗の一撃によって飛来する飛竜が打ち落とされる。
 打ち落とされた飛竜は激しく地面に打ち付けられるが、すぐその後ろから新たな飛竜が
牙を剥きながら突っ込んでくる。
 並んだ散切り歯を叩き折るように、聖女はその横っ面を柄で殴打する。砕かれた犬歯を
撒き散らし、錐揉みしながら吹き飛ぶ。
 だが直ぐにまた別の飛竜が背後から襲い掛かる。
 そのタイミングは絶好であり、聖女は隙だらけだ。
「あまり吼えないで頂戴な」
 だがその隙を庇うように、マタ・ハリが常時発動型の宝具で対象を捉える。その効果に
より、襲い来る飛竜の動きをワンテンポ遅らせることに成功する。
 そしてマタ・ハリが首傾けると、流れる髪を乱暴に掻き分けて柄の石突が伸び、背後か
ら襲いかかろうとしていた飛竜の喉を突いた。
「そのまま伏せて下さい」
 マタ・ハリは言われるまでもないと、喉を突かれたことによって飛竜が噴射した反吐を
潜るように回避する。
 その頭上を聖女の旗が薙ぐ。
 それで背後から襲いかかった飛竜は絶命した。
「そのまま走り抜けて!!」
 言われるがまま、マタ・ハリは低い姿勢で囲まれつつある包囲から低い姿勢で抜け出す。
 逃げ出すその背に襲い掛かろうとする輩は、ジャンヌが背後からこれを討った。
 アサシンクラスの脚力により囲いから脱したマタ・ハリは、十分に距離を取り、覚悟を
纏めるように一呼吸した後、甘い魔力を放出した。
 それは『フェロモン』のスキル。
 生前は肌から流れる汗や、贔屓にしていた調香師に作らせた香水、生理によるホルモン
バランス、そういった諸々を美しく調律し、フェロモンとして演出していたマタ・ハリ。
その精妙な魅力を、彼女はサーヴァントへと昇華したことにより、今や自身から立ち上る
魔力によって再現することができるのだ。
「さぁいい子たち。こっちよ、相手をしてあげる」
 立ち上り漂ってきたその甘い香りに、戦場に存在する飛竜全てがそちらを見た。
 マタ・ハリ自身は知る由もない事だが、ワイバーンは性質として雌雄同体である。彼ら
にはそれが災いし、誘引された。
 これこそ一時的とはいえ、街を包囲する軍を散らせてみせた彼女の能力その正体である。
 雄ならば皆自分に惹きつける能力。
 更に魔力を濃密にすれば魅了すら可能にする能力。
 それこそサーヴァントマタ・ハリの持つ『フェロモン』のスキルである。
 自身を求めて、その後を追いすがる連中をからかうように、マタ・ハリは逃走する。
 誘引して、逃げ出す。
 街路を走りにげ、倒壊した建物をアサシンらしく踏破し、街中を円を描くように誘引を
続けながら逃走する。逃げるマタ・ハリに追いつけぬ飛竜は、その後を一本の線のように
連なりながら、その残り香を必死に追う。
 それを嘲笑うように駆け、やがてマタ・ハリはバトンを渡すように彼女の元に駆け戻り
スイッチする。
「ハァァ!!」
 気合い一閃、ジャンヌが正面から敵を叩き伏せる。
 それは四方八方から襲い来る敵を討っていた時より、遥かに効率的な殲滅である。
 なにせ敵は順番待ちをする列のように、一本の線になって行儀良く討たれていく。
 無論捌ききれるのは、列の最初の方だけある。後はジャンヌの処理能力を上回り、その
大半は取り逃がしてしまう。
 だが取り逃がした連中は、再びマタ・ハリの誘引によって列整理が開始される。
 後は単純な繰り返し作業である。
 『啓示』スキルにより、この作戦を思い描いたジャンヌ・ダルクは無論のこと、その作
戦を察したマタ・ハリこそ真に賞賛にされるべきだろう。
「なるほど、これはワイバーンだけでは倒せないか」
 再び飛竜を引き連れて逃げていたマタ・ハリは、突如聞こえたその声に大きく跳躍する。
 直後、甲高い音と共に、彼女がいた辺りの地面をデオンの剣が貫いていた。
「あら、先ほどの続きを御所望?」
「貴女がこの作戦の鍵だ。悪いが竜騎兵連隊長ドラグナーとして君を討たせて貰おう」
 理性を十分に取り戻したデオンは作戦の要を見抜き、ジャンヌとマタ・ハリの距離が十
分に離れた頃合を計り、襲い掛かったのだ。
「いざ!!」
 ヒュン、ヒュンと軽く繰り出される細剣レイピアを、踊り子はステップを踏むように避わす。
 だがそれはジャンヌと打ち合っていた頃と比べればまるで小手調べのようなものだ。そ
して次第に繰り出される剣は速度を増していき、回避のステップはそれに振り回されるよ
うに、そのBPMを上げていく。
 だが無手で避わし続けることなど叶う筈も無く、避けきれなかった剣先が浅くマタ・ハ
リの腕を切り裂いた。
「あっ……」
 腕に奔った痛み。
 たったそれだけの事でマタ・ハリは足を縺れさせ転倒してしまう。
 痛みを耐えるなんてとんでもない。不意の痛み程驚くものはないのだから。
 見上げる騎士が剣先で顎を持ち上げてくる。
「マリー!!」
 遠くからジャンヌの悲痛な声が聞こえる。
 マタ・ハリで、マリー。
「なによその愛称……。まったく、フランス人って親しくすると直ぐに変な愛称を人につ
けるんだから」
 まるで剣を突きつけてくる目の前のフランス人を非難するみたいに、彼女は微妙な笑み
を浮かべながらいった。
「マリーか……、素敵な愛称だと思うけれどね」
「そ、ありがとう」
 ほんの短いやり取り。
 デオンはそのまま剣を突き刺す事をせず、一度剣を引き大きく振りかぶる。
 特に深い意味はない。ただ何と無く、マリーの名で呼ばれたこの名も知らぬサーヴァン
トの喉を突いて、長く苦しませるのは忍びないと思っただけだ。
「マリーー!!」
 遠く走りってくるジャンヌ・ダルクの悲痛な声が聞こえる。
 自分のような穢れた存在を喪う事を嘆いてくれる声だ。
「馬鹿ね……」
 特に意味は無い。
 ただそう思っただけだ。
 剣が迫る。
 陽の眼を閉じる事はしない。
 それは彼女の数少ない矜持の一つであるからだ。
「ッ!!」
 その驚きは誰の物であったか……今まさに一体のサーヴァントが消滅しようとした瞬間、
眩い銀光が頭上から降り注ぎ、処刑人は驚きに目を剥きながら、その処刑台から退避した。
 転がるようにして避わし、土煙の中から顔を上げると、処刑人が立っていた場所に何者
かが立っていた。
 そして眩むような眩い光が晴れると、そこには硝子の馬に腰掛けた麗しの少女が一人。
「――貴女様は!!」
 騎士が感動に震えたように、最大限の驚きを見せる。
 だが情緒を介さない無粋な飛竜たちは、上官が獲物を譲ってくれたと勘違いし殺到する。
「アマデウス、音を頂戴な」
「まったく、名前を口にしてくれるな!!」
 ジャーンとシンバルを打ち鳴らしたよう音が響き、その音に中てられ飛竜達が怯む。
 飛竜達を威圧し、退けた音はやがて美しい旋律を紡ぎ、硝子の馬から飛び降りた少女の
シーンを演出する。
「えぇ、皆様御機嫌よう!!そして向こうの貴女、私の名前を呼んでくれてありがとう!!」
 彼女は世界中の喝采を一身に浴びるように、高らかに名乗りを上げる。
「私が、私こそが、フランス王妃、マリー・アントワネットよ!!」











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