聖女の外典
第六話







「あんっ。……もうそんな風に触られますと驚いてしまいますわ」
「済まない。こういった体勢は初めてでな、上手く体を扱えないんだ」
「安心して。責めている訳ではありませんの。ジークの不慣れでぎこちない様子は、寧ろ初々しくて可愛いくらいですもの」
 睦言を交わす様に、二人は顔を寄せ合い、声でお互いをくすぐり合う。
「だが余りにも不甲斐無いと男として立つ瀬が……くッ!!」
「慌てないで……。ゆっくり……ゆっくりと慎重に動いてくれれば、後は私の方で上手くやりますわ」
「だがそれでは君の負担に……ッ!!」
「あら坊やなのにもうお姉さんの心配?大丈夫、騎乗スキルに関していえば、私、かのイスカンダルにさえ勝ると自負しておりますから」
「だったらマタ・ハリ、君が手綱を握るべきでは?」
「あら私が主導権を握ったら凄いですわよ?」
 そう言ってマタ・ハリは意地の悪いサキュバスの様に、ジークの上で官能的に腰をくねらせる。
 するとジークは苦しげに……そして堪えるように耐え忍ぶ。
 マタ・ハリはそんなジークの様子を蟲惑的笑みで笑うと、調子が乗ってきたのか、更に彼を攻め立てるように言った。
「まだまだ序の口よ。此処から一気に……」
「って、いい加減にして下さい!!」
 二人を引き裂くように雷が落ちた。
 マタ・ハリは思わず耳を両手で塞ぎ、ジークは突然の落雷に目を丸くする。
「あら如何致しまして、聖女様?お顔が真っ赤ですわ」
 指摘の通り、ジャンヌは怒り心頭といった様子で顔を真っ赤にしているが、彼女の見せる紅潮の何割かは、羞恥心から生じている。
「如何も何も、如何わしい真似は謹んで下さいと言っているんです!!」
「如何わしい?」
 マタ・ハリは両手を広げて、自らの肉体を丹念に吟味する。
 その肉体は馬に騎乗するジークその上に跨るように置かれており、両脚はストリップダンサーのように大きく開脚されている。キッチリと折り目正しくラインの入ったジークの黒いスラックスの上で、マタ・ハリの柔らかく引き締まった太腿が官能的に躍動する様は、酷く不釣り合いであるが、それ故に魅力的である。
 そして何より、二人が相乗りする馬が早足で軽快に駆けていると、ジークの眼前を覆うように、豊満な胸部がぷるぷると震えるのだ。
 大半の男ならこれだけで果ててしまうだろう行動を取りながらも、マタ・ハリはカマトトぶった悪い笑みを浮かべて、「何が?」と微笑む。
「分っているでしょう!?」
「ですからいったい何の事なのかしら?」
 無垢を装うマタ・ハリの笑みは、だけれど誰の目にも聖女の口から卑猥な言葉を吐かせてみたいという欲求に満ち満ちている。
 そして手玉に取られるジャンヌは顔を赤く染めながら、悔しそうに唸っている。
 その表情は実にマタ・ハリ好みだ。
 因みに道中この様な挑発をマタ・ハリはジークを交えて、幾度も行っている。
 最初はジークの後ろに跨り、その背中に腕を回して行軍していたが、マタ・ハリが余りにもその胸部を、変形する程の露骨さでジャンヌに見せつけるように押しつけるものだから、彼女から物言いがついた。
 結果手綱を操るジークの両腕の間に収まるという形で決着がついたはずなのだが、何をどうしたのか、その態勢はいつの間にかジークがマタ・ハリを対面から抱きかかえ上げるという態勢に変化していたのだった。
「もう!!なんでもいいですから、ともかく貴女は私の馬に乗って下さい!!」
「えー、嫌よ」
「どうして!?」
「だって聖女様ったら鎧を着ていらっしゃるじゃない。固くて抱き心地が悪そうだもの」
 ジャンヌの出で立ちは、指摘の通り紫を基調した衣の上に、銀の鎧……というか銀の手甲と腰鎧を身に着けている。そこに手を回すのなら、確かに硬いだろう。
 だがジャンヌは勝った!!といった具合の表情を浮かべ、パチンと指をスナップして鳴らし、魔力で編み上げた装束の鎧のみを解除してみせた。
「さ、これで問題は無いはずです。どうぞ」
 軽快に闊歩するジークの黒馬の横に馬をつけ、自分の駆る白馬に乗り移るように促す。
「あら聖女様ったら、意外と大胆なのね」
 鎧を解除したジャンヌを見て、マタ・ハリが関心したような声をあげる。
「大胆も何も、何処に敵が潜んでいるか判らない状況とはいえ、サーヴァントの肉体は弓矢程度では傷つきませんよ。それにもし仮に敵がアーチャーのサーヴァントであったらなら、その初撃は真命開放の宣誓が聞こえない遥か遠方からの宝具の一撃です。その場合鎧による防備など期待できませんから」
 それでも行軍に際し、ジャンヌが不要とも思える鎧を纏っていたのは、それが戦場に赴く心構えとして相応しいと思っていたからに過ぎない。それが戦場を駆け抜けた彼女にとって自然体という話であり、意識的に鎧を解除することに対しては特に躊躇もないのだ。
「いえ、そういった男性的なお話ではなくってね……」
「はい?」
「え〜っと、ですから」
 一瞬逡巡するような素振りをしたマタ・ハリは、だけど直ぐにそれを取り止めて手を伸ばした。そしてジャンヌの衣の裾を指先で摘みあげ、短く「見えてますわよ」と言った。
「え、きゃぁ!!」
 スリット、と呼ぶには余りに深いジャンヌの衣のソレは、服装自体の極単純な構造による弊害だ。馬に乗って足を割ってしまえば、腿から太腿にかけてのラインが大胆に露出する。今までは腰回りに付けていた鎧によって、露出は防がれていたが、自慢げに鳴らしたフィンガースナップ一つでその守りは瓦解した。
「ん、どうかしたのか?」
「ダメッ!!」
 聞いたことの無いようなジャンヌの悲鳴を受けて、ジークが振り向こうとした刹那、ジャンヌは右手に実体化させた自らの旗の宝具の柄によって、ジークの両の目を殴打した。
「ガフッ!!」
「いやん」
 ぐらりと馬上から転落しようとするジークの上で、マタ・ハリ体を後ろに倒し、両足を大きく開脚して、巻き込まれるのを防ぐ。
「って、あぁジークくん」
 反射的に張り倒してしまったジークに、ジャンヌは慌てて馬から飛び降りて駆け寄る。その際大胆に開いた裾を直し、再び鎧を纏うことも忘れない。
 振り向きかけた所を、長物の柄で両目を殴打され、馬上の高さから後頭部を地面に打ち付ける。普通の人間なら容易く死亡する見事なコンビネーションである。目を殴打した事により、反射的に両手で両目を覆わせ、後頭部をガードさせなかったのもさり気なくポイントが高い。
「ジーク君、しっかりして下さい、ジーク君!!」
 結局こんな騒動もあってか、マタ・ハリはジークの馬に同乗し続けた。



※  ※  ※  ※  ※


「次の市が見えました!!」
 新たな出会いから数えて数日の行軍の後、目的地に据えているオルレアンに向かう旅の途上、手綱を握り締めたままあぶみの上に立ち上がったジャンヌが、遠く微かに臨む事のできる市壁を指差す。
「陽も大分傾きましたし、今日はあの町で宿をとりましょう」
 その言葉に空を見上げれば、確かに太陽は大分傾いている。
 遠くに望む町に到着する頃には、夕暮れ近くになっているだろう。
 そこから再び歩を進める事になれば、それは真夜中の行軍だ。何が起きるか判らない。
「でもそう上手くいきますかしら」
 ふぅ、っと腕の間に器用に収まったマタ・ハリが冷めた態度でジャンヌの言葉に応じた。
「と、いいますと」
「別に深い意味なんてありませんの。それにほら、理由なんて色々とありますでしょう。戦時中に旅人に食料を分け与える余裕があるのかしら?とか、そもそもあの市壁は私たち三人に対して開かれるのかとか……」
「それは……」
 ジャンヌは思わず、自らが乗る馬を供出してくれた街での出来事を思い返す。
 彼女はそこで住民に不安を与えるからとの理由で、立ち入りを断られた。
 街を救ったにも関わらず、だ。
 ならば何もしていない・・・・・・・自分達に対して門が開かない公算は高いだろう。
「いや、そこは心配しなくていいんじゃないか?」
「え?」
「この時代の関所におけるルールとかは良く判らないが、此方こちらには何といってもマタ・ハリが居てくれる」
 な?とジークが何の気も為しに聴くと、腕の中に納まったマタ・ハリは笑顔でいともたやすく請け負った。
「えぇ、勿論ですわ。私を矢面に立たせて頂けるなら、素性の知れぬ不審者の一人や二人、物の数ではありません」
 関所に立つ役人は男性と相場が決まっている。
 ならばマタ・ハリは市内にどんな危険物でも持ち込めるだろう。
 それが例え、世界を滅ぼすと宣言した首謀者と全く同一の顔をしていたとしてもだ。
「ですがそういった想定は無意味だと思いますわよ」
 稀代のスパイと名高い彼女は顎に手を当てて暫し悩み、やがて別にいっか、といった具合で実にあっけらかんと言い放った。
「だって多分あの街、既に滅びてますから」
 その言葉にジャンヌの肩がビクンと震えた。
 そして彼女は考える素振りも見せずに、直ぐに馬を全力で走らせた。
「待て!!」
 ジークの静止も聞かず彼女は駆けてゆく。 
 慌ててその背中を追おうと馬の腹を蹴るが、腕の中にマタ・ハリを抱えているせいで、期待したようなスピードは得られない。
「先に行く!!君はその馬をよろしく頼む!!」
 これならば走った方が早いとジークは断じて、馬から飛び降り駆けていくジャンヌの背中を追う。
「……お気をつけて」
 手を振って見送るマタ・ハリは、だけど無駄を悟っている者の表情を浮かべている。
 だがその顔を見咎める者はいない。
 心優しい二人は既に駆け出してしまった。
 後は存外淡白なサーヴァントが一人、テクテクと馬を急ぎ足で進めるだけだ。



※  ※  ※  ※  ※  ※


 ジャンヌは破壊された正門の有様を目撃した瞬間、絶望を悟った。
 それでも一縷の……本当にか細い一縷の望みに縋って、彼女は破壊された正門の間を駆け抜けて行く。
 市壁を抜け、広がる光景を見た彼女は果たして、その絶望的な光景に呆然とした。
 そこは例えるなら散らかされた晩餐会といった有様だった。
 真っ赤なソースが当たりに飛び散り、歯に挟まる小骨が無造作に投げ捨てられている。飽食に溢れたその晩餐会場では、筋張って硬い肉は一齧りして不味いと捨てられており、柔らかく上質な部分は皿に顔を突っ込んで、舌先を駆使して夢中で貪られている。
 破られた市壁とは何時だって無残なものである。
 平時であれば市をグルリと囲む高い壁は頼もしく、雑多な敵をいとも容易く退けるが、一度その守りが破られれば、後は堰を切ったように敵が雪崩れ込み、頼もしかった市壁は市民を捕らえて話さない、残酷な牢獄へと変貌してしまう。
 そこではあらゆる狂宴が黙認され、それを咎めるべき法の守護者は、前線から遥か遠い安全な場所から、豪奢な馬車でゆっくりと赴任してくる。
 彼らが到着した頃には既に手遅れだ。
 全ては食い散らかされ、全ての惨劇は住民の頭上に等しく降り注いだ後なのだから。
 後は虚ろな目をした彼らに、権力の衣を纏った法の守護者達が王権による統治を宣誓し、民衆は壊れた心でそれを粛々と受け入れる。
 それが破壊された市壁の末路だ。
 何度でも言おう。
 破られた市壁ほど無残で残酷な物はない。
 だから彼女は努めて無表情で、馬から飛び降りゆっくりと歩き出す。
 すると数歩も歩まぬ内に、砕かれたレンガの一部を足の裏で転がしてしまい、石畳と擦れ合ってジャリッと嫌な音を響かせる。
 その音に、食事に興じていた者達の視線が一斉に集る。
 ある者は新しくやって来た馳走を前に喉を鳴らし、ある者は満腹なので戯れに壊れるまで遊んでみようかと残酷な視線を向ける。
 その恐ろしい視線に、馬は大きく嘶き、元来た道を一目散に駆けて行く。
 そしてソレを合図にしたように、新たにやって来た哀れな犠牲者の所有権を主張するように、鋭い爪を備えた彼らが一斉に彼女に群がる。
 そして次の瞬間には、熟れた石榴が枝から落ちて石畳にぶちまけられるように、ぶちゅりと水っぽい嫌な音と共に真っ赤な中身が零れ出た。
 更に続けて、ぶちゅり、ぶちゅりと石榴が弾け飛ぶ。
 最初、その違和感に気づいたのはその場の誰よりも巨躯を有する生物だった。満腹になるまでたっぷりと飽食に与り、消化の為に屋根の上で体を休めていた存在。
 それが下で巻き起こった不自然さに気づいた。
 真っ赤な汁が飛び散る。それは別段おかしなことではない。それは散々やって来た事だ。
 不思議なのは耳をつんざく悲鳴が全く聞こえない事。汁が飛び散る前は、必ずといっていいほど喧しいほど鳴り響いていたあの音が、全く耳に届かない。
 なのに赤い汁だけは零れていく。
 興味を引かれ、彼は屋根から翼をはためかせ飛び降りる。
 そして着地して、自分よりも遥かに矮小なその生物を、長い鎌首を伸ばして蛇のような目で覗き込む。体毛も鱗もない実に食べやすそうなその顔は、驚くべきことに無表情だった。彼に異種族の表情から感情を読み取る程の分別はない。それでも食われる瞬間や食事に与っている時間、あらゆる生物に共通しているのは、その表情を変えるという事だった。
 だがその矮小な生物は牙を剥くでも、顔に皺を寄せるでもなく、つるりとした表情を保っている。
 それが彼には珍しく、そして美味しそうに見えたので、軽く一つまみするかのような気軽さで、顔を横に傾け、首から上を一齧りしてみようと大きく口を開いてみた。
 すると喉の辺りに一瞬熱いものが走った。そしてその熱さは次第にじんわりと広がってくる。だがその痛みの理由に、彼が気づくことはない。彼はその肉体の構造上、自らの喉元を見ることが叶わず、ただ無表情に折れそうな小枝を此方に向けてくる人間と呼ばれる生物を眺めながら、その巨躯をぐらりと揺らして倒れ伏し事切れた。
 その事実に、やって来た新鮮な食事を囲った者共は皆、驚きに目を剥く。
 そしてその驚きは敵意へと変貌し、取り囲んだ敵を嬲り殺そうと、幾つもの鋭い爪が踊りかかる。その爪は肉を切り分け、込められた力は容易く骨を砕く。なのに殺到する全ての爪は、その存在には決して届かない。
 それに触れようとする命は、全てが潰れた果実のように辺りにぶちまけられる。
 更に、二度、三度と似たようなことが繰り返され、彼らはようやく悟る。
 自分たちはこの壁に囲われた内部に残虐に君臨したが、正面から自分たちよりも遥かに力を持った存在が、君臨する為にやって来たのだと。
 彼らは本能的に逃げ出そうと考えた。
 自分の爪と、脚力なら、あの高い壁を駆け上がって逃げ出す事も可能な筈だ。
 脆弱な人間には無理でも、狼の血統を誇る上位種たる自分達にはそれは可能な筈だった。
 だがタイミングが最悪だった。
 彼らは丁度、童話『赤ずきん』に登場する狼のように、その腹の中に、石の変わりに赤ずきんを詰め込んだ所だったのだから。
 彼らは鈍重にしか動けず、壁を登るにはあと二日は待たなくてはなるまい。
 だから逃げ道は正面にしかなかった。
 そうして彼らはやぶれかぶれに突貫する。逃げ出す為に、死に向かって突貫する。
 それは勇気ある行いではなく、惨めな敗走である。
 そうして虫のように惨めに潰された。
 間合いに侵ったという理由だけで、羽虫のように叩き潰された。
「ジャンヌ!!」
 そこに新たな闖入者がやってくる。
 その声に彼女はゆっくりと、壊れた発条ぜんまい人形のように振り向く。
「あぁ、ジーク君」と無表情に。
 ジークはその光景に言葉を失う。
 破壊尽くされた町並みと、大量の血と血と血。
 あとは人間のモノと思しき肉片と、引き裂かれた衣服。
 それは彼が生まれて初めて目撃する戦争の惨禍だった。
「…………」
 戦闘の惨劇ならばジークは知っている。
 彼と同じ存在は嘗て、サーヴァントに攻撃を仕掛け、躯を野に晒した。
 ジークは同胞の躯の間を歩き、祈る神はいなかったが祈った。
 そしてそれは、断じてこのような残虐な有様ではなかった。
「これが戦争……」
 言葉の意味は知っていた。
 だが戦闘という極限状態に抑圧され、それが勝利という形で解放され、褒章として奪う権利が勝者に与えられると、こういった結果を招くのかと彼は生まれて初めて知った。
「――大丈夫か?」
 震える声で尋ねた。
「はい問題ありません。この程度の攻撃で傷つくサーヴァントではありませんから」
「違う、そっちじゃない」
「はい?」
 無表情のジャンヌが首を傾げる。
 努めて……努めて感情を揺らさないように。
「君の心は大丈夫か?」
 数瞬思案して、ジャンヌは手に持った旗を眺め、そしてやがてさめざめと泣き出した。
「死んで……死んでしまいました」
 言葉を搾り出すと、ジャンヌはわぁっと声を上げて泣き出してしまった。
 後悔といった後ろ向きな感情とは無縁と思われたジャンヌが、声を上げて泣き出す。
 その姿に戸惑いつつも、ジークはその細い肩を抱きしめた。
 その間にワーウルフ達は一斉に正門から逃げ出すが、それはどうでもいいことだ。
 あのジャンヌ・ダルクが声をあげて泣いている。
 それが余りにも意外で、その姿が余りに自然で、抱きしめるという行動以外、彼自身の戸惑いを隠せる方法がみつからなかった。
 泣き腫らす姿は聖女のそれではなく、ただ何処にでもいる心の優しい少女のようで……。
 そうしてジークはジャンヌの見てきたものに気づく。
『騎行戦術』
 百年戦争当時、イギリス軍がフランス軍を苦しめた戦法。
 馬を用いイナゴのように俊敏に、イナゴのようにあらゆる物を略奪して奪い去っていく。
 おおやけの略奪こそがイギリスの戦法であり、フランスが疲弊した理由。
 そして一向に戦争が終結しなかったのも、騎行戦術によって被害を受けたフランス国民が、イギリスの統治を感情的に受け入れなかったからである。
 ジャンヌ・ダルクは、だから、そのように略奪されるフランスから生まれたのだ。
 彼女はこれと似たような惨状を目撃したから聖女としてたったのだ。
 ジャンヌ・ダルクの立脚は、ジャンヌ・ダルクの決意は、だからこの様な風景から生まれたのだ。
 それは余りに悲しい誕生だろう。





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