The United Kingdom
-第1話-





見送りは遠坂だけだった。

なんでも、イギリス旅行にセイバーと二人っきりで行く、それは大変危険なことらしく、絶妙なパワーバランスで成り立っていた勢力図が崩れ去り、計画を妨害するのが出てくる。
これが遠坂の言い分だった。

よって決行当日まで計画は三人の胸の内に仕舞い込み、誰にも露呈することの無いよう、トランクに荷物を詰めていった。

いや、もう一人だけ計画の概要を知っている人を忘れてた。
セイバーのパスポート、その手配をしてくれた藤村雷画、俺が爺さんと呼んでいる人物だ。
そう、セイバーのパスポートをどうするか悩んでいた俺は、藤村の爺さんに相談したのだ。
すると爺さんは何も言わずパスポートを用意してくれた。

「なあ、爺さんこれって偽造だよな、」
「そいつは違うぜ、シロ坊。偽造ってのは既に在るもんに、手を加えて作ったもんだが、こいつぁ違う。捏造したセイバー嬢ちゃんの記録から、正式な手続きを踏んで作り上げたもんだ。」
「それってやっぱ偽造なんじゃ……」
「違ぇ、パスポート自体は本物よ、それはこの俺が保障してやる。ただその元になる情報が偽なのさ」

なーんてことを言ってたが、俺には理解できなかった。
とにかく最大の懸案事項を、爺さんの手助けで突破した俺は今日この日を迎えたのだ。

今日起こした行動といえば、皆にちょっと出かけてくるといって遠坂とセイバーの二人を連れ、簡単な手荷物と共に空港へ来たことくらいだろうか、

「シロウ次はどうすればいいのですか?」
だだっ広い国際空港で、俺たちは必要手続きに追われていた。
それでも空港施設が珍しいのか、セイバーは終始、興奮気味だ。


直行バスのセイバーは凄かったもんな、
空港へ向かう直行バスの中、大空を横切る大迫力の飛行機に歓声を上げていた。
「凛、凛、あれが飛行機なのですね!」
「ちょっと落ち着きなさいって、」
「あれに乗れば我が故郷、ブリテンに行けるのですね。あぁ今からとても楽しみです。」
二人掛けの席はセイバーと遠坂が並んで座り、後ろの席に俺が座っている。
バスは夏休みなだけあって席は俺の隣以外全て埋まっている。その中でセイバーは、あれだけはしゃいでいるのだ、乗客の視線は否応なく二人に集中してしまう。
「子供でも、あそこまで騒がないよな。」
二人を見ながら呟く、
最近の子供は偉く淡白だ。
その点セイバーは限りなく純粋なのだろう、初めての経験を前に笑顔でいられるのだから。
「またです。また来ましたよ凛、ほらあそこです!あそこ、見えますか?」
「見えてるわよ。だから静かにしなさい……って、あぁもう。士郎席チェンジ!!」
座席からを乗り出すように後ろに座る俺を睨んでくる。
……ふむ、
俺も後ろの席を振り返る。……仲のいい親子が座ってる
「こらー無視すんな!!他人のふりするな!!士郎ーー!!」
凄い剣幕だ
「ワタシ・ニホンゴ・ワカリマセン〜」
「死ね!!」
「ガフッッッ!!」
投げられた、お茶のペットボトル500m g入りに意識を奪われる。
消え行く意識の中、よく人前でガンドを打たなかったな、と俺は遠坂を褒めていた。

「あれは痛かった〜」
「何がです?」
「なんでもない、えーと手荷物検査は終わっただろ、その次はっと」
赤い悪魔監修、イギリス旅のしおりを捲る。
空港内での手続き、ホテルでのチェックインの仕方、お勧め観光スポット、そして絶対に近づいてはいけない場所を記した優れものだ。
「後は搭乗口で待つだけか、」
「では、飛行機に乗れるのですね!」
凄い喜びようだ、
「時間が来たらだけどね、」

搭乗口目指し、オートウォークを歩く。
広い人口直線を進んでいると、妙な感慨に囚われる
だけれど、別の国、そうイギリスへの旅の扉だと思えば、この風情は似つかわしいのかもしれない。

現代の世界で生まれて始めて故郷に戻るアルトリア。
伝説の王としその名を世界に轟かせ、『妖精郷アヴァロンより来たりて後世に蘇る王』とまで語られた偉大なる人物。
俺の隣を歩いてくれて、俺の背中を守ってくれる愛しい人。
はしゃぐ姿は少女だけれど、剣を執れば最強を誇る彼女。
アルトリアが生まれ、育ち、守り通した土地。
だからしょうがないのかもしれない、胸の内に渦巻き混沌と停滞するこの気持ちは、

「大丈夫ですかシロウ?顔色が優れませんが……」
「ちょっとね…うん、なんか急に向こうで英語が通じるか不安になってさ」
見透かされそうになった感情を言葉で覆い隠す。
「問題ないでしょう、私と凛が夜通し教え込んだのですから。日常会話程度なら難なくこなせるはずです。自信を持ってください」
「そうだな…うん平気だ、大丈夫。英語はちゃんと通じる。」
通じなきゃ、あのバイオレンスで地獄的な日々が無駄になってしまう。
それは色々と報われない……あぁ絶対通じるともさ。
特訓と恐怖の日々で培った語学力、イギリスで披露してみせよう!
「あ、シロウ搭乗時間ですよ、急ぎましょう。乗り遅れます」
「わかった、わかった」
セイバーに腕をとられながら搭乗口へ急かされる。

搭乗口で機械に航空券を通し、イギリス行きの直行便に乗り込む。
旅券は遠坂が用意してくれた。
途中で空輸品を受け取ることも、給油することもない直行便の方がお勧めよ、とこっちの要望も聞かずに用意してくれたものだ。

「だけど、直行便で正解だなこりゃ」
正面ディスプレイに映される航空路、日本を出て中国大陸へそのままユーラシア大陸を横断する形で向かう。
地図上に示されるそれは簡単なものだが所要時間が13時間とぶっ飛んでる。
流石、地球の裏側。
妙なところで感心してしまう。
「いよいよ離陸ですね。」
息を呑むセイバーが告げる。
上を見ればシートベルト着用のサインが点灯している。アナウンスも流れていたようだ。

窓際に陣取るセイバーはソワソワしていて落ち着きがない。
このままでは、バスに乗ったときと同じように興奮して、周囲の注目を集めることになるかもしれない……この離陸前の緊張した空気をセイバーの歓声で乱すのは、やってはいけない気がする。
やったら最後、13時間にも及ぶ空の旅がいたたまれないものになってしまう。
だから俺はセイバーを緊張で固めることにした。

「なぁセイバー、飛行機ってどうやって空を飛ぶんだろう?」
「勿論、翼で飛ぶのでしょう?」
疑問を疑問で返された、中々に手ごわいかもしれない。
「でもさ、幾ら翼が付いてるからって人間を沢山載せた鉄の塊が飛ぶと思うか?」
「……無理、いや困難でしょうね」
「そう、困難だ。飛行機ってのは高確率で墜落するんだ。それを影ながら防いでいるのが魔術なんだ」
そんなわけはない、推力であるエンジンと揚力を生み出す翼、あとなんだっけ…まあとにかく空力学的に計算し尽くされた飛行機に魔術の絡む余地は無い。
「魔術理論を導入してるのですか!!」
「し、声が大きい」
自分でもよく舌が回ってると関心してしまう。
「す、すみません」
「一般人にソレを知られるのは不味い。公に出来ないんだから」
「えぇ、迂闊でした。しかし、これだけの物を空に浮かべるのですから、大規模な式が動いてるのでしょうね。」
「察しが良くて助かる。」
どこら辺が助かるのだろう?
そろそろボロが出ないかヒヤヒヤしながら続ける会話は正しく綱渡りものだ。
「一般人を運ぶために回ってるこの式はとてもデリケートなんだ、分かる?」
「はい、理解できます。」
「だからもし、セイバーが少しでも感情を乱して…そうだな歓声を上げたりとかすると、式が誤作動を起こしてしまうんだ。セイバーの対魔力は強力なんだ、だから静かに。わかった?」

いかにトンチキなことを並べてるのか自分でも理解しているが、これくらい言わないとセイバーに鈴は付けられない。

……セイバーに鈴か、言いえて妙だな。
セイバーの首に首輪と鈴それと猫ミミ……あ、グッときた。
「分かりました、精神を静に保ちつつ望みます。」
「あぁ、是非そうしてくれ、猫ミミはきっと似合う。」
「は、猫ミミですか?」
「うわっほおい!!」
え、もしかして俺は口走ってたのか。
「シロウ、静かにしてください。精神が乱されます」
「あぁ、悪い。悪い。」
謝る声も聞こえないのか、セイバーは猫ミミを普通に聞き流し、瞑想に近いものを初めてしまった。



※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



それからのセイバーは機内で押し黙ったまま、離陸を向かえ。
13時間にも及ぶ空の旅を無言を通した。
ただ機内食に涎をたらしていたことは黙っておこう。


そして俺は、永遠とセイバーと猫ミミについて考察を巡らせていた。
(セイバーは百獣の獅子、それに猫耳はどうだろう?似合うか?いや愚問だ似合うに決まってる!!考えてもみろ、もしだぞ、セイバーに猫ミミが生えててみろ、ソレがピクピクっと動くんだぞ堪らないじゃないか!!!!!)
てな事を永遠と考えていられた辺り、セイバーと猫ミミは魔性の取り合わせだ。







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誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)
ガント→ガンド