陳腐で王道な御伽噺
        -前編-





 これも一つの物語
 数ある世界に点在する。数ある世界の一つに過ぎない物語
 滑稽で、出鱈目で、それでも優しい物語


「腹減ったー、これ以上水だけで過ごすのは肉体的にも精神的にも限界か」
「いや我が主よ。妾は一週間もの時を水だけで過ごしたことに人体の不思議をみたぞ。」
「そうかいそうかい。」
 もう駄目、もう限界。アルの話が東から西へ素通りしてくみたいだ。
「そろそろ教会に泣き付けばよいではないか、『マスターオブネクロノミコン』ともあろう者が飢え死になぞ末代までの恥じ、いや無限螺旋の最奥、その果てまでにも残る恥辱ぞ。」
「で、でもよ。ライカさんに『一ヶ月間で哺乳類の底辺生活から脱してみせる』って啖呵切っちまったからよ。一週間でギブアップは流石に俺のプライドが許さないっていうか、情けないっていうか……」
「その様な矜持ドブヘ捨ててしまえ、腹の足しにもならん。それに御主に人間的甲斐性が無いのは今更のことではないか。」
「そ、そんな酷い!!アルは俺が哺乳類の底辺呼ばわりされたことに何も感じないのか!」
 ただ飯に次ぐただ飯に、遂にはライカさんに人類から哺乳類まで格下げ喰らってしまった。
だから、何とか、なんとか、哺乳類底辺の敬称を返上しようと耐えてきた俺の努力はどうなるの。

「確かに哺乳類区分での底辺はライカの言い過ぎではあるな。」
 腕を組みうーむと俺の思いに答えてくれる。
「そうだよね、そうだよね!」
「せめて異常性癖ペドフィリアの底辺に留めて置くのが情けとゆうものだろうに。」
「オイ!!」
魂の底からの発露だ。
大体アルの体がちっこすぎるのがいけないんだ。もっとこうボインのバインだったら良かったのだ……無理だ想像できん。むしろ創造すら出来ない。

 ドゴオオオオオン
「みぎゃーーーーーーーー」
どす黒い魔力にイキナリ吹っ飛ばされた
「汝、今妾を冒涜するような事を考えてなかったか?」
「ブンブンブンブンブン」
必死で必死の必死で首を振る。
 辺りに撒き散らされる黒い波動に当てられたのか、ダンセイニまでもが表面をぷるぷると波打たせながら怯えている。
「まぁよい、早々に教会へと向かうぞ。準備しろ!!」
「サーイェッサー」
 ビッと本能が敬礼をし、乱れた衣服を整え、腰のホルスターに二挺拳銃を挿す。
戸を開け戸締り。ライカさんの元へと向かう。

「そういやアル。お前飯はどうしてたんだ?」
「ふ、決まっておろう。教会で馳走になっていたのだ」
「……こ、この古本娘!!」
「み、みゃぁぁーーーにゃ、にゃにをする九朗ーー!!」
 俺の辛抱は、辛抱はどうなるんだーーーー
憤怒と情欲に身を任せて、アルの小さい体を後ろか抱きしめるように捏ね繰り回す。
「この、この、この、こんちくしょーー」
「やめ――りゃめ――――りゃ、みにゃーーーーーーー」
ジタバタ暴れていたアルが一瞬痙攣したかと思えばそれっきり動かなくなってしまった。
「ふぅ、勝った。」
アルの身体の弱い場所を知り尽くした俺には造作も無いことよ。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
 無意識的に邪悪な笑みをこぼしていた。
うむ、いかん腕に幼女を抱いたまま笑っていては、また警察に捕まってしまう。
急ぎ、腕の中でぐったりとしたままのアルを抱いたまま教会に向かう。


 ぐったりと疲れ果てたアルを脇に抱えたまま教会の戸を睨む。
「この扉を開ければ俺は一週間ぶりの飯にあり付ける…だが、だがそれでいいのか大十字九朗、俺のプライドはここで地に失墜したままでいいのか。」
ぐ〜う/空っぽの胃袋に響く生命活動の限界点。
今、俺の思考はプライドと胃袋が凌ぎを削る螺旋へと陥っていた。
「なっあ〜神様、俺は、俺はどうしたらいいんだーーー」
天に吠える。負け犬の遠吠えの如く!!
「……やめやめ、なんか惨めになってきた。」
頭(かぶり)を振り、心身に染み込んだイメージを抜く。
「ま、いっか背に腹変えられぬ状況だし。」
納得。理論付け。言い訳。
 一通り自分のプライドに言い訳した後、食卓へと繋がる扉を開ける。
この向こうに飢えと渇きを潤せる楽園がある。そうこの扉はまさに天国への扉。
ガチャン、大仰な音を上げて開く扉、向かうは食卓。待ち構えるは天使の笑みをしたライカさん。
「あら、以外に早かったのね。ただ飯食らいの根性無しの底辺男。」
「すんません」
素直に土下座。
天国は一瞬で砕け散った。あぁ無常かな



「食事、食べていくんでしょ。」
「いいんですか!」
 ライカさんが放つ言葉のナイフを、真摯に心の柔らかいところで受け止めて心がボロボロになったところで、ライカさんの口から初めて福音の言葉を聞いた。
「まぁ九朗ちゃんだしね。」
「あはは、そうすよね。なははは」
もう笑うしかねえや
「準備するからそこで寝てるアルちゃん起こしてあげて。」
あぁそういやアルの奴は眠ったまんまだったな。
礼拝堂の長椅子に横たわるように気絶したままのアルの体を揺さぶってやる。

「おい起きろ〜、朝だぞ〜、飯だぞ〜、食べちゃうぞ〜」
「う、う〜ん―――――――。」
微かに意識が灯っただけですぐに落ちてしまった。
激しく揺さぶってもいいんだが、起きた時にアルの機嫌が急転直下で下降するのは目に見えている
つまり揺さぶるのはNG。と、ゆうことは魔術しかあるまい。
それも全世界共通、眠り姫一発覚醒のアレだ。
そう、熱烈なる愛のキッス。これしかあるまい
いや、待て落ち着け、状況を一度整理するんだ。冷静に、冷静に分析しろ。

シュチエーション―――――教会、
周囲の状況――――――――周囲に敵影無し、
相手―――――――――――世界最強の魔道書、(ロリ)

 ここで萌えなきゃ男じゃない!!
しかも教会とゆうシュチエーションが何とも背徳的で、気持ちやその他諸々を昂ぶらせる。

「不肖、大十字九朗、突貫させていただきます!!!」
 覆いかぶさるように近づき、顔をググイと接近させる。
赤く、潤いをもった唇。何度も味わってはいるが、それは決して飽きることの無い赤い禁断の果実。
それを今此処で、神の家として信仰を集めるこの場所で、味わいたいと思います!!
あと五センチ、あと四センチ、三センチ、二センチ、一セン
「何をしているのお父様?」
「おわっ!!」
全身の硬直と、言葉の暴発。
思わず顔を上げると、目の前には赤い服を纏った血の少女。
「く、九朔!!」
名前に笑顔をで答えて、手をひらひらさせている。
そして何かに気づき距離を取る。
その動き、その反応は早かった。
対して俺は突然の事態に状況が飲み込めず、危機に対する反応が遅れてしまった。
「のう九朗、お主は妾に何をしようとしていたのだ?」
ゴゴゴゴゴと何かが震える。
わーい眠り姫が起きたー。と喜ぶ小人がいるはずもなく、お姫様の代わりに目覚めたのはドラゴンだった。
そして無謀にもドラゴンに覆いかぶさるドンキホーテ。
「いや――あの――――アルが目を覚まさないから、その――――キスしたら目覚めるかなーて……
そ、それにお前も教会ってシュチエーションは初めてだろ、」
「死ね」
必死の弁解を遮る形で魔力の篭った右が飛んで来る。
 顔面に綺麗にめり込んだそれは、顔の骨格フレームを歪め俺を吹き飛ばす。

 結果=飛ぶ/衝突/跳ねる/飛ぶ/衝突/跳ねる×3=無残

 教会内を縦横無尽に飛び回り、掻き乱し、停止。

 肉体―――――ボロボロ
 精神―――――ズタズタ
 その他――――甚大なる被害
     状況報告――――終了







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